自動運転中の事故事例の回避シミュレーションの動画を公表 【CES2019レポート】 トヨタのAI開発部門TRIギル・プラットCEOのスピーチに感銘【CES2019レポート】
- 2019/01/14
- CAR STYLING編集部 松永 大演

今回のCES2019でトヨタは、専用ブースこそ設置しなかったものの、極めて重要な技術発表をおこなった。こちらは、当MF.jpでもすでに報じられている通り。しかし、すぐにでも実現可能のように発表されている自動運転技術のなかで、これほど正直なステートメントはなかったのではないか。
現在、世界は自動運転技術がもはや予定された技術のように、すぐに実現できるものと感じている。しかしそこには技術的な観点からも、社会的な観点からも極めて大きな解決するべき問題が山積することを改めて教えてくれたのが、このギル・プラット氏のスピーチだった。かねてより、トヨタの目指すクルマの制御技術は、ガーディアンとショファーの2つに向けて進められている。ガーディアンとは、人間の運転技術を伸ばすための技術。人間の操作を主体にして、サポートの必要な部分に手を差し伸べるイメージを実現させる。これはフライ・バイ・ワイヤの先にある技術でもあり、部分的には戦闘機の操縦システムと同様だ。操作系はドライバーの意思を示すものであり、どのようにすればその意思をより忠実に実現できるかを車が考え動く。
いわば人と馬の関係。乗馬する人がどのようにしたいのかを考え、馬が最適な走り方をする。その馬にあたる部分が最新のセンサーとAIによる判断機能を持ったロボット=車となる。つまり操作を判断するのはドライバーである人間なのだが、センサーにより危険を察知すればドライバーへの警告、そして間に合わない場合は回避などの対処をするというもの。
これはファン・トゥ・ドライブであるとともに、何よりも現実的でなおかつ高齢者への運転の可能性を拡大してくれる。さらに事故率の高い若者に対しても、事故を防ぐサポートになる。そして並行して進められるのが、トヨタでいうところのショファー。つまりは自動運転技術だ。
自動運転については、まだまだ超えるべき問題が多くあるとプラット氏はいう。技術的な問題としては、彼が指摘するように「青信号の前で警官が車を制止する場合に、自動運転車はそれをどう理解すればいいのか」などは大きな問題だ。
また、そこから発展して、こんなことはどうだろう。例えば、ある自動運転車がある事故を回避したら、その先で数人の子供が飛び出してきた。車にはドライバーが1人だとした場合、車を壁にぶつけてドライバーの命を奪い、子供たちの命を救う。それが正しい……極端なことをいえば、1人の命を救うより数人の若い命を救う、ということになっていくべきなのだろう。
警官の制止や、それよりも曖昧な事柄、例えば高速道路の路側を歩く人をみる、あるいは路上に靴が落ちているといった時に、ただ単にそれが現状の危険を脅かすものかどうかの判断をするだけでなく(この先に何かあるのかもしれない)と思える意識。これらは多くの交通事例を学んでも、そこから外れるケースもありうる。
自動車の運転という領域を超えて、“人間”としての生活の中で培われてくる社会的認識から感じられる違和感が、人間を慎重にさせるということはあると思う。そうなれば、自動運転はどこまでを学べばいいのか、ということも問題になってくるし、自動運転を認証するための制度も必要だろう。
また、そうした制度ができれば、今度はその認証をクリアすればいいことになる。本当にそれでいいのか、ということも問題だ。その種の問題にだけ100点が取れる車であっては良くない。特定の試験条件だけをクリアする装置を密かに開発し装着しているようなことは、絶対に許されないはずだ。
悪い見方をするのならば、プラット氏のスピーチは、実験中に起きてしまった事故に対する釈明とも捉えることもできる。しかし、これまでのトヨタの姿勢を照らし合わせるならば、消してそうではない。これまでから変わらぬポリシーを貫き、そして自分たちの現状を冷静に見直す、極めて勇気ある発言であることがわかる。
そして私たちは、ギル・プラット氏の発言から、より多くのことが学べたのではないかと思う。
さらに彼のスピーチと動画には、驚くべき事実が語られていたと思う。実際に起こった事故の解析から、状況を再現しガーディアンならどのように回避するのかを行なわせた映像も紹介された。
3台が絡むことになる事故の例。後方からトヨタのテスト車に迫り、起ころうとする衝突事故に対して、ガーディアンが見せたのは加速して回避することだった。
加速することで、テスト車の右側面へ突進する車からの衝突を避ける。トヨタのテストカーがいたその空間を開けることで、3台目との間隔にも余裕ができた。そこで2台が絡む事故すらも、回避できる可能性が高まることになったという。
通常では人間が運転するのならば、後方に迫る事故はほとんどが回避できないと考えるのが一般的だ。しかしガーディアンならば、他の車の位置にも配慮しながら最適な回避ができる可能性があることを示したのだ。
また、他の動画ではガーディアンのサポートによるスラロームの映像もある。ここではレーシング・ドライバーでしかなし得ない、あるいはそれ以上の速さで走り抜けることが可能になる。こんなことが必要なのかとの声も聞こえそうだが、これが、ベストな事故回避性能を高める、一つの選択肢として持っていられるかどうかの境目になるのは間違いない。決して減速することだけが、事故を防ぐことにはならないということが明確に語られた。
このことが、今回のトヨタのコンファレンスの中で最も重要なことだったように思う。これまでのように、自動運転の開発は必須の技術的課題だ。しかし、自動運転に大きなハードルがあったとしても、車は必ずや人間を守るように進化できる。そのことを改めて認識することができたのだと思う。
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