人それぞれの安全運転意識に頼らず、交通インフラで事故や違反の起こらない環境を作る。これが「交通事故死ゼロ」実現のカギとなる! 「交通事故死ゼロ」は、本当に実現するのか?【交通取締情報】
- 2018/01/15
- 「東新宿交通取締情報局」

この1/4、警察庁がホームページおよび報道向けに「平成29年中の交通事故死者数について」というレポートを発表。それによると、昨年の交通事故による死者数は3,694人と過去最少を記録。これを受け、政府は2020年までに交通事故死者数を2,500人以下にする目標を掲げている。が、悪い意味でとらえれば、これは交通社会においてある程度人が死ぬのは想定内ということになり、「人の命は地球より重いと」いう観点からすれば当然、目指すべきは「ゼロ」であるはずではないのか? という疑問が湧いてくる。そこで、欧州から始まった「ビジョン・ゼロ」戦略を提唱するクラウス・ティングバル氏に、欧州の最新事情を聞いてみた。
ティングバル氏 確かに、私が1995年にスウェーデン道路庁道路安全部で「ビジョン・ゼロ」を提唱したときには、なんて変わった考え方だと思われていました。というのは、それまでの交通安全の考え方は、交通事故が起きれば人命を失うデメリットもあるけど、道路があるからこそ便利な生活ができているとの前提で両方のバランスを取る対策が行われてきたからです。それをいきなり、「人命を守る」ことを大前提にしたのですから。
―考え方のベースはどんなものなのですか?
ティングバル氏 ドライバーなど道路を使う人が交通安全に責任を持つという考え方を180度転換し、ビジョン・ゼロでは交通システムを作る側が可能な限り安全性に責任を持ちます。その根本には、人間の判断は完ぺきではないという思想があり、それを前提に交通システムを作っていくのです。
―運転中に眠くなったり、スピードを出しすぎたり、ついついスマホをみてしまうこともありますからね。
ティングバル氏 だからこそ、そうしたことが起きても事故が起きないような設計にします。それでも事故が起きてしまった場合ですが、人間には耐えられる衝撃力が決まっています。そのため、衝撃を抑えるような設計を車や道路インフラに取り入れるのです。
―例えばどんなシステムですか?
ティングバル氏 交差点での事故を防ぐためのランドアバウト(環状交差点)や、追突を防ぐ車両の自動追突防止機能などといった仕組みがあります。それに、事故が起きた際の衝撃を減らす衝撃吸収ボディーやエアバッグなどもそうです。走行速度が10%上がると事故の死亡率が40%上がることが分かっているので、システム全体で速度を抑制することが大切です。
―ロータリー交差点の一種となる「ランドアバウト」は、日本にも2014年の道路交通法改正で採用されて増えています。道路ごとの速度規制はどうやって決めるのが良いですか。
ティングバル氏 人は上下動には恐怖感を抱いても、横の移動には案外感覚がないもの。それが自然な走行速度を判断できない理由にもなっています。でもいろんな研究実験データを見ればその道路の最大速度がどのくらいなのか計算できます。
―しかし、日本ではシステムで事故を防ぐより速度取締りに重点が置かれています。
ティングバル氏 確かに速度取り締まりも必要ですが、それと同時に速度を落とすために道路にハンプ(段差)やシケイン(屈曲部)を設けてスピードが出ないようにする工夫が必要です。こうした安全を高めるシステムの導入には予算も必要。どれだけ政治が動くかにかかっています。
―ドライバーを守るためには車両の安全対策も重要です。
ティングバル氏 ボルボは、時速80キロで走っている車同士が正面衝突したときにも自動ブレーキやエアバッグで衝撃を大きく吸収する車づくりをしています。2020年までには、事故が起きても人が死なない車を作ると言っています。古い車も走っているため事故死亡率が急に減るわけではありませんが、2020年以降はいまよりはるかに安全性の高い車が増えてくるでしょう。また欧州では今後、一定速度以上は出せない車が出てくると予想されています。
―最高速度リミッターが付いた車両はよくありますが、それとどこが違うのですか?
ティングバル氏 一定の場所では、アクセルを踏んでも安全速度以上は出ない機能を付けます。例えば、住宅街や歩行者の多い地区では出せる速度を時速40キロまでと決め、こうした速度制限装置の付いた車しかエリア内に入れないようにするのです。
―とっさの時に急加速が出来ずかえって危険な感じもしますが。
ティングバル氏 交通事故を防ぐ以外に、テロリストアタックに効果があると言われています。つまり、猛スピードのトラックで突っ込んでくるテロを防ぐには、物理的にスピードの出ない車だけを制限区域内に入れるようにする考え方です。欧州の大きな都市ではすでに実験的に導入しています。
―ほかにも欧州で導入されているビジョン・ゼロをベースにした政策はありますか?
ティングバル氏 スウェーデンのストックホルムやオランダのアムステルダムでは、品物の配達を車や人通りの少ない夜間帯に行い、そのうえ自動運転のできる電気自動車を取り入れて事故を減らす方向です。また、人口の多い都市部になるべく車を入れないようにするために、町中では1時間700円程度という現地ではかなり高めの駐車料金を設定したりもしています。こうしたいろいろな政策を行いながら、交通事故のリスクを減らしていくのです。
―ティングバルさんがビジョン・ゼロを掲げてから20年以上が経ちました。いまはどの段階でしょう。
ティングバル氏 ビジョン・ゼロを世界で初めてスウェーデン政府が取り入れたのが1997年。2008年にはEUも採用しました。トヨタ、ボルボなど自動車メーカーにも掲げているところが増えています。国連は、世界が目指す2030年までの「グローバルゴール」の一つに交通問題の解決を上げていてます。そのためにビジョン・ゼロを着実に進めることが必要だと考えています。
聞き手・構成 ジャーナリスト桐島瞬
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