【難波 治のカーデザイナー的視点:連載コラム 7回目】いよいよスタイリング───その3「僕の想いを伝えたい!」
- 2019/08/04
- MotorFan編集部

光や映り込みを駆使して表現する
実際のクルマは真っ白なスタジオにでも入れない限りそのクルマの本当のカタチの表現を観察することができない。何を言おうとしているかといえば、現実にはクルマは必ず何らかの環境下に置かれているので(クルマに限らず)、だからさまざまな周囲の環境がクルマの塗装面には映り込んでいる。私たちは日常そういう光の反射や、映り込み、光の変化による色のグラデーションによってクルマを見ているので、スケッチもその理屈に合わせて描くのだ。要するに自分が考えた提案車が持っているカタチの特徴は、このように見えるはずだ、として光や映り込みを駆使して表現するのである。
まずクルマの形状(外形)そのものは、パースという投影法の理屈で描かれ、提案するクルマを見る角度に応じてそのパースを変化させてまず空間にクルマを置く。実は、クルマが四角四面の直方体ではないために(建築物のような直方体の組み合わせではない)、このパースの中にクルマを置く作業がとても難しい。そこにタイヤやホイールという円形のパーツまでついてくるので、本当に厄介なのである。車体とタイヤとそれらが合体した姿でパースの空間に自分の考える(訴求したい)カタチをセットしなければならないからだ。
次に理解しなければいけないのは、クルマの立体に実際に何がどう映り込むのかだ。これはほぼ物理の時間だ。入射角と反射角の法則だけ。人の目の高さを固定し、クルマを置いた場合に、その人の目には周囲の環境がどんな風に映り込んで目に見えるか。それを描けるようにならなければならない。その映り込みを描くことによって、自分が提案したいクルマのサーフェイスの表情を説明できるからだ。
ただし、デザイナーはその法則を理解し覚えてさえいればいい。数値的に100%嘘のない反射や映り込みを描く必要など一切なく、その法則を使って自分の提案をより魅力的に演出してやればいいのだ。だからスケッチは、それを見せる相手に自分の見せたいと思うカタチをいかに判ってもらいやすく描けるかが重要であり、そこには誇張が必ずあり、演出があるのだ。そのためには実は時には嘘も描く。反射や映り込みが物理の法則とは間違っていてもあえてそういう要素をスケッチ内に描き込むことがあるし、省くことも多々あるのだ。

VR(Virtual Reality= バーチャルリアリティ)は出来上がった3Dデータをある指定した環境下に置き、データにレンダリングをかけ、光源を指定して現実の世界を再現する。究極に本物に近く‘本物’ を画面で見ているといってもいいくらいに本物で、これ以上のリアルがない。だがスケッチの目標はそこではない。デザイナーが創造した出来上がりの予想図ではあるが元々はいかに素早く、効果的に、クライアントや判断者に自分の考えを見せられるかというためのツールなのだ。であるから、はしょるところははしょり、見せたい部分はしっかりと描き込むことにより訴えたい部分をより良く相手に見せようとするものなのだ。提案する側と受ける側の双方ともに人間であり、実は言いたいことと、相手が見て感じたことにはズレがあるのだが、そこがいいのだ。そのズレも含んでその場の人間同士の互いの想像力をベースとした阿吽の呼吸や予見が存在しているのであり、三次元化の現場でさらに上のステージへ提案を向上する元となるのだ。
会社に入ってからのスケッチの評価会はエレベーションスケッチ(Elevation Sketch)、いわゆるサイドビューのスケッチが主である。サイドビューが基本である。これでプレゼンテーションや、デザイン部内の評価会などをすることになるので、この二次元の紙のなかにいかに多くの三次元情報を入れられ、しかも魅力的に見せられるかが問われる。デザイナーとして判断者である上司にいかに自分のデザインの魅力を説明できるかということだ。判断する上司はプロ中のプロなのであるから嘘は見抜かれ、つじつまの合わない部分はあっという間に指摘される。それでもそれを含んでも魅力的なエッセンスを持つスケッチは選ばれてモデル化されていくのである。スケッチは一目で理解できるものであるので、そのスケッチを一所懸命に口頭で説明して納得してもらっている姿はやや滑稽だったりする。プロの判断者が見れば、一目で判断が付いてしまうからだ。
難波 治 (なんば・おさむ)
1956年生まれ。筑波大学芸術学群生産デザイン専攻卒業後、鈴木自動車(現スズキ自動車)入社。カロッツェリア ミケッロッティでランニングプロト車の研究、SEAT中央技術センターでVW世界戦略車としての小型車開発の手法研究プロジェクトにスズキ代表デザイナーとして参画。94年には個人事務所を設立して、国内外の自動車メーカーとのデザイン開発研究&コンサルタント業務を開始。08年に富士重工業のデザイン部長に就任。13年同CED(Chief Excutive Designer)就任。15年10月からは首都大学東京トランスポーテーションデザイン准教授。
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