「400×4」の21年間【牧野茂雄の自動業界車鳥瞰図】
- 2020/07/21
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Motor Fan illustrated編集部

去る8月25日、フェルナンド・ピエヒ氏が82歳で死去した。祖父はポルシェ創業者であり、自らはアウディを皮切りにポルシェの身内であるVW(フォルクスワーゲン)グループで開発担当役員の任に就き、ランボルギーニなどの買収を主導し、最終的にVW会長も務めた。大帝国となったVWは現在、フォードとの関係を強めつつある。
Ferdinand Piëch(フェルディナント・ピエヒ)氏は1937年生まれ。スイスに学びチューリッヒ工科大学を卒業し、63年にフェルディナント・ポルシェ氏亡き後のポルシェA.G.に入社した。母親はフェルディナント・ポルシェ氏の娘であるルイーゼ・ポルシェ嬢、父親はフェルディナント・ポルシェ氏の顧問弁護士だったアントン・ピエヒ氏である。
ピエヒ氏が参加した当時のポルシェA.G.はVWからの業務委託もこなしていた。役員陣から一族を排するという決定からピエヒ氏はポルシェA.G.を去り、ダイムラーベンツ (当時) の技術コンサルタントをしていた。ピエヒ氏がアウディに迎えられたのは72年である。
91年、私は日刊自動車新聞社の記者として IAA(フランクフルト・モーターショー)に赴き、当時VW会長だったカール・H・ハーン氏にインタビューし、同じ日にアウディ社長だったピエヒ氏にもインタビューした。ハーン氏とのインタビューは30分間、ピエヒ氏とはわずか15分間であり、しかも英国の新聞記者氏と一緒だった。ビジネスマン然としたハーン氏に対しピエヒ氏はまったくタイプが違った。物腰は柔らかくても、闘志を内に秘めた根っからの技術者という印象を抱いた。
インタビューの最後に「私の愛車は、あなたが産んだクワトロです」と告げると、ピエヒ氏は「ありがとう」と微笑んで握手してくれた。私がピエヒ氏と直接言葉を交わしたのは、このインタビューのときだけだ。その後は記者会見で何度か姿をお見かけしただけだ。
この年のIAAは、VWがチェコスロバキア共和国(当時)の元国営企業であるシュコダ・オートを傘下に従え、VW、アウディ、セアトに次ぐ4番目のブランドであることを大々的に紹介する役割を負っていた。同時に三代目VWゴルフの量産が立ち上がった直後であり、VWは商品としてのゴルフだけでなく「資源リサイクル」を会社の重要テーマに掲げていることを大々的にアピールした。そしてグループ共同記者会見の席上、ピエヒ氏は記者からの質問に答えるカタチで登壇し「アウディもまったく同じ方針である」と、ひとことだけ語った。 このIAAから6年8ヵ月後、98年5月にダイムラーベンツとクライスラーの合併が発表された。 21年前のことだ。それからひと月も経たないころ、 ピエヒ氏は「私はダイムラーとクライスラー以外にも合併や買収の話が進められていることを知っている」と記者団に語った。この発言は日本でも報道された。
年間400万台の生産台数がなければ生き残れない――かつて「400万台クラブ」という言葉を最初に発言したのはピエヒ氏だったように思う。 ダイムラーとクライスラーの対等合併発表は、欧州の自動車産業界でも「寝耳に水」の経営陣が多かったようだ。ドイツ銀行がドイツ国内自動車メーカーの安定株主という座から降り始めて以降、金融証券筋が水面下で動いた案件はいくつもあったが、やがて400万台クラブという言葉は自動車関連企業にM&Aを持ちかける金融界の罠と化したように思う。
ピエヒ氏の「私は知っている」発言は、経営者としては不合格だ。なにか思惑があるとしか思えなかった。当時「ニューモデルマガジンX」編集長だった私は、スクープ写真のバーターと情報交換とで連携していた英AUTOCAR、独AUTOBILD、仏Le AUTOMOBILEに電話をかけ(まだeメールは普及していなかった)、 ピエヒ発言の真偽のほどを探ってもらった。彼らからは「本当にM&A(企業の提携・合併) があるらしい。ひとつじゃないようだ」と2~3週間後に聞かされた。
その後、アウディはブガッティの再生に関与し、さらにランボルギーニを買収し、VWグループはベントレーを傘下に収めた。フェルディナント・ピエヒ氏がVW会長を務めた93年から2002年までの間に、VWは一気に巨大化した。ピエヒ氏 が言った「ダイムラーとクライスラー以外のM&A」とはこのことだったのだろうと、後になって私は思った。
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