これからは、「モーターありき」のトランスミッションへ トランスミッションの「多段化時代」は終わるか?
- 2017/08/13
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Motor Fan illustrated編集部 鈴木慎一

自動車誕生してからのトランスミッションの歴史は、ひたすらギヤ比幅の拡大と多段化の歴史だった。21世紀に入ってからは、その流れは顕著で、メルセデス・ベンツが7G-TRONICで7速ATを、アイシン・エィ・ダブリュとZFが相次いで8速ATを開発。ZFが横置きATで9速化したら、メルセデス・ベンツは縦置きで9速ATの9G-TRONICをリリース。トヨタ/アイシン・エィ・ダブリュはLC用に10速ATを登場させた。GMとフォードも手を組んで縦置き10速ATを開発。ホンダは横置きで10速ATを作った。
多段化の狙いは、レシオカバレッジ(最ローのギヤ比を最ハイのギヤ比で割った数字。ギヤスプレッドともいう)を大きくし、ロー側は発進~中間加速を助け、ハイ側は高速巡航燃費を稼ぐためだ。
そして、もうひとつ。6速よりも7速、7速よりも8速の方がエライ(のかも?)という消費者の意識に訴えられるというメリットもある。
ここで、現在の多段トランスミッションのギヤ比とレシオカバレッジを見てみよう。話は縦置きトランスミッションに限ることにする。
まずは、アイシン・エィ・ダブリュの縦置き8速ATはレクサスIS、GSなどが搭載するアイシンAWR8L35が
1速:4.596 2速:2.724 3速:1.863 4速:1.464
5速:1.231 6速:1.000 7速:0.824 8速:0.685
レシオカバレッジ:6.71
この6.71は、数年前までならごく標準的なレシオカバレッジと言えた。

では、ライバルZFの8HPはどうだろう? 縦置き多段ATの標準機ともいえるZFの8HPは、BMW、ジャガー・ランドローバーなどが搭載している8速ATだ。
ZF 8HP
1速:5.000 2速:3.200 3速:2.143 4速:1.720
5速:1.314 6速:1.000 7速:0.822 8速:0.640
レシオカバレッジ:7.81
レシオカバレッジの7.81は、充分に大きな数字だ。8HPの第一世代が7.06だったから、第二世代で10%以上レシオカバレッジを拡大したと言える。次の8HP GEN.3ではさらにレシオカバレッジを広げるという。

ここから一気に「多段化競争」が白熱する。
メルセデス・ベンツ(ダイムラー)の9G-TRONICは、従来の7速AT、7G-TRONICに代わってメルセデス・ベンツのFR系のトランスミッションとなる9速ATだ。メルセデス・ベンツだけでなく、現在はジヤトコ製7速ATを搭載する日産/インフィニティも将来的には9G-TRONICの供給を受けるようになるのでは、と予想されている。プレミアム・クラスのFRで7速だと競争力が保てない時代が、もうすぐそこまで来ているからだ。
かといって、日産/インフィニティのためだけに、あらたに9速、あるいは10速ATをジヤトコが開発するメリットは少ない。となれば、提携しているダイムラーの9G-TRONICを使う、という選択はごく自然な成り行きだ。
Daimler 9G-Tronic
1速:5.503 2速:3.333 3速:2.315 4速:1.661
5速:1.211 6速:1.000 7速:0.865 8速:0.717
9速:0.601
レシオカバレッジ:9.16
ついに、レシオカバレッジ9オーバーとなった。また、オーバードライブ(ギヤ比1.00以下)ギヤが3段となったのも注目点だ。

従来自社の8速ATを使ってきたGM、そしてZFから8HPの供給を受けてきたフォードは、共同で10速ATを開発した。そのギヤ比はといえば
GM-FORD 10L/10R Series
1速:4.700 2速:2.99 3速:2.15 4速:1.80
5速:1.52 6速:1.28 7速:1.00 8速:.0.85
9速:0.69 10速:0.64
レシオカバレッジ:7.34
このトランスミッションもオーバードライブは3段ある。
となっている。
AISIN AWR10L65
1速:4.923 2速:3.153 3速:2.349 4速:1.879
5速:1.462 6速:1.193 7速:1.000 8速:0.792
9速:0.640 10速:0.598
レシオカバレッジ:8.232
おそらく、このアイシン・エィ・ダブリュとGM/FORDの10速ATが、多段ATの到達点なのではないか、と思う。理由は3つ。
ひとつ目は、ライバルであるZFは、「これ以上の多段化はしない」と言っていること。ZFの総帥であるステファン・ゾンマーCEOに直接聞いても「ZFは、10速ATは作らない。これ以上の多段化は意味がない」と明言していた。
二つ目は、ディーゼルの失速だ。欧州勢が次世代パワートレーンの主役としていたクリーンディーゼルが、VWのディーゼルゲートから大きく失速。主役の座から降りてしまった。ディーゼルエンジンは、トルクは大きいが回転が上がらない。そこに多段トランスミッションを組み合わせれば、走りも燃費も両立できる……はずだった。ディーゼルエンジンがコケたことがトランスミッション多段化のトレンドに水を差したと言っていいだろう。
三つ目は、というか、これが最も大きな要因だと思う。電動化だ。これから開発されるクルマは、なんらかの電動化が必須になる。各国とも、早晩「エンジンだけで走るクルマはダメ!」となりそうだ。となれば、クルマは必ず「モーター」を搭載しなくてはならなくなる。
これまでは、従来のトランスミッションのトルクコンバーター(あるいはデュアルクラッチユニット)が収まっていた場所に、モーターを入れてハイブリッド、PHEV化するのが開発手法だった。
これからは、「モーターありき」でトランスミッションが開発されるようになるはずだ。「+モーター」ではなく、モーターに「+トランスミッション」になるわけだ。
モーターありき、となれば、発進はモーターが受け持ってくれる。ならロー側を広げなくてもいい。ステップ比(ギヤ段とギヤ段の間隔)が大きくなっても、モーターがアシストしてくれれば問題ない。
多段化すれば、それだけトランスミッションは重くなる。プラネタリーギヤセットも増える。なら、モーター+6速ATの方が、効率もよく軽くできるのではないか? となってくるとモーターファン・イラストレーテッド編集部は予想した。
実際、エンジニアリング会社やメガサプライヤーは、モーター内蔵の4速ATや、モーター内蔵の新しいCVTの提案を行なっている。トランスミッションメーカーも、「モーターありき」トランスミッションの開発にすでに着手している。
未来を予想するのは難しい。こう言っている間に、世界のどこかで12速ATや14速ATが開発されているのかもしれない。
が、MFI編集部は、「これからはモーター+シンプリファイ・トランスミッションだ!」という推論を元に、自動車メーカー、トランスミッションメーカー、エンジニアリング会社などを取材した。各社の答えは、現在発売中のMotor Fan illustrated Vol.131「電気仕掛けのトランスミッション」でご覧になっていただきたい。
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レクサスLC500の10速AT、LC500hのマルチステージ・ハイブリッドの詳細をはじめ、アイシン・エィ・ダブリュ、ZF、ジヤトコ、トヨタ、スズキ(AGSハイブリッド)、商用車のトランスミッション(アイシン精機)、IAVなど最新トランスミッションを徹底取材。
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